2010年6月10日木曜日

手作りの教材

社会人の学びなおしシステムを指す「リカレント」という言葉を最近知った、きたかんリポータ、きのっちです。言葉や定義は普段意識せずとも、常に学びが必要だと思う道内観光現場の人も、きっと多くいることでしょう。そして、見ていると忙しい人こそ、本業をやりながら学びの会を主宰したり、支援したりしています。

6/6付にも書きましたが、きたかんにおける人材育成の際に使用する「教材」を「手作りすること」について、さらに深堀り&整理してみます。とかく観光まちづくりの事例について書籍にすると、生々しい経営データなどの情報を開示することで生じる、各方面からのクレームなどのリスクや、読み手が多様になることで起きる解釈の相違をあらかじめ回避するため、表現をぼやかしたり伏せたり、とかく無難にしがちです。でも受講生にとっては、観光まちづくりの「成功事例集」を手にグループワークをしたいのではなく、実在する組織や企業の取り組みを題材に、リアルな数字や表現こそが必要で、そのような可能な限り“本物”を使って議論がしたいのです。

このケースメソッド教材は、いまのところは受講生の学習のためだけにある教材です。さらに、事例となった側にも、読んだ受講生からの知識と結びつくことで、多くの気づきを得ることのできる機会となります。ですから成功話だけではない、右肩下がりの数字や、経営者の下したマズイ選択などの節や項があっても、かえってそれはありがたい話です。そうした、出せる事実ギリギリに肉薄した聞き取りを行っています。その主旨に賛同して、データを開示してくれた、これまでの協力組織や企業、個人経営者など多くの組織に感謝です。

これまでに・・・

【1期生】
議論した地域=阿寒
タイトル「阿寒湖温泉の挑戦―自発的な地域再生に対する地域全体での取組―」
講師=かとうけいこ氏(シーニックバイウェイ北海道)

議論した地域=然別 
タイトル=【坂本昌彦(北海道ネイチャーセンター代表取締役)―熱き北海道観光のニューリーダー」
講師=益山健一氏(キャリアバンク)

議論した地域=標津
タイトル「ツアーを契機とした新たな地域ネットワークづくり―北海道標津町の取組みを事例に―」
講師=森重昌之氏(北海道大学大学院 観光創造専攻 博士課程)

議論した地域=浜中
タイトル「湿原保全のための地域外からの支援活用とマネジメント ―北海道浜中町霧多布湿原トラストの取り組みを事例に―」
 3.敷田麻実氏・木野聡子氏(北海道大学観光学高等研究センター・同大 観光創造専攻修士)
※標津&浜中は、1回の講義で2グループに分けして運営した


【2期生】
議論した地域=夕張 
タイトル「夕張国際ファンタスティック映画祭―市民活動による映画祭の復活―」
講師=益山健一氏(キャリアバンク)

議論した地域=黒松内
タイトル「『ブナ北限の里』の地域づくり―北海道黒松内町」
講師=敷田麻実氏・森重昌之氏(北大 観光創造)

といった教材を使って、1期2期の受講生は学んできました。

手作りの教材は教科書にはないメッセージが入っています。私自身の記憶とも重ねても、中学や高校では「手作りの道具」を沢山抱えて教室に現れ授業をする先生は、その語りやモチベーションも高くて面白かったし、その教科を好きになってほしい「気持ち」が入っていました。きたかん受講生も、この「手作り」に込めた思いに気付いてくれたら嬉しいものです。

また、講義の回だけで対象地域との関係はプツンと切れ・・・ないのが、きたかんの特徴です。2期生が夕張の回で得たネットワークは、発展的な方向でさらなる自主学習企画に実行しました。きたかんメンバーの特技や専門性が、2010年2月の「ゆうばりファンタスティック映画祭」の現場で生かされるという、思わぬ効果が生まれました。これならば、事例の対象となる地域側にとっても、ネタとして一方的に「消費」されるだけでなく対等かつ持続可能な関係です。

* * * *

ところで、道内の幾つかの事例がすでに本になっているものとして、手前味噌的なPRをしておきます。きたかん敷田麻実座長ほか、理系領域の理論的枠組みと、社会学的な現場の思考に精通する、北海道大学の大学院観光創造教員と社会人学生のメンバーが四方に散って取材した「観光のブランディング」(2008)と、「地域からのエコツーリズム」(2009)が、ともに学芸出版社から出ています。各地でおきている多様な事例を、1つの考え方で示し、かつ読みやすい本です。まずは図書館にあったら借りて読んで損はないと思います。本が気にいったら、実際に買って手元に置くのも賢明な選択です。

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